探究チャンネルVOL.5、磯村歩さんにお話を伺いました

 

 教育ジャーナリスト中曽根陽子が、さまざまな立場で教育に関わっているオピニオンリーダーにインタビューする探究チャンネル。やりたいことを見つけて、自分らしく生きていくための探究力の育て方について、これからの教育や子育てについて、ゲストをお迎えしていろいろ伺います。

 今回は、一般社団法人シブヤフォント共同代表の磯村歩さんをゲストにお迎えした2021年8月27日のVOL.5のお話をリポートします。

 

シブヤフォントについて

 シブヤフォントでは、関わる人々が各自のフィールドの強みを活かしながら、活動しています。障がい者の方が描かれた作品(アート)から、学生がフォントとしてデザインし、そのデザインを使って様々な形で商品として作り上げていきます。エコバックや傘、スーツ、渋谷区の表示板にも使われています。パラリンピックの応援のタオルもありました。磯村さんは、障がい者がかいた作品が具体的にどのようにデザインされ、物として創り出されるかを動画をつかってご紹介してくださいました。

 シブヤフォントは、渋谷区の事業「渋谷お土産開発プロジェクト」として始まったそうです。単に障がい者の方々が作られたものをそのまま売るのではなく、磯村さんが指導している桑沢デザイン研究所の学生たちがリデザインして価値にする。
 このプロジェクトには、磯村さんのデザイナーとしての経験が活かされています。障がい者の方への工賃だけではなく、学生たちの教育にもさまざまなな可能性を見出す事業として広がってきたそうです。シブヤフォントのものづくりには、みんなで作り上げるメッセージ性が込められているのです。

 

視点の変化

 磯村さんが、福祉の領域に参画したきっかけは、以前お勤めの企業でユニバーサルデザインの仕事に携わったことがきっかけでした。ご自身にとっては、不便だ、不快だと感じていたことが障がいがある人にとっては役に立つ場面に遭遇し、クリエイティブな視点への変化があったそうです。「ある特性をネガティブにとらえるのではなく、どうとらえるかで可能性が広がる」「ある社会の環境において不便だからこそ、顕著に現れることには、多くの人が大事にすべきインスピレーションがある。」とおっしゃる磯村さん。

 さらに「仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事をあわせる。どのようにポジティブにその人の強みを引き出すか」など、磯村さんの体験に基づく力強いメッセージにに、私もどんどん引き込まれました。「アートの良いところは、違うからこそ価値があること」「その人のポジティブな面を可視化するのがアート」とは、まさにシブヤフォントの活動に通じるメッセージでした。

 

デンマークでの気づき

 磯村さんのシブヤフォントに至るきっかけは、企業を退職してニバーサルデザインの先端事例を体現するためにデンマークへ留学されたことでした。デンマークで一番心残っているのは、「自己決定権と対話と連帯」この3つが国民の理念としてしっかり根付いていること。特に鍵となるのが自己決定権で「自分のやりたいことをしっかり見つめなおして、それを社会が叶える」ためにいろいろな政策があります。また、デンマークは、対話をもって互いを尊重する社会だそうです。
磯村さんは、留学先の先生から「あなたは、未来のために今を生きている。今のために今を生きてはいかがでしょうか?」と問われたことが衝撃だったそうです。企業人として「先の計画を考えて、今するべきことをこなす。仕事は外からふってくるもの」だった磯村さんにとって「今、自分が何をやりたいか」を考える視点がなかったことに気づきます。
「やりたいこと」と「やるべきこと」の差が大きいと無理がでてくる。このことから「今後、働く人がいきいきと働くために、どのように会社としてサポートしていくのかを考えることが、最終的には企業の発展につながる」と考えるようになったでした。

 

子どもに育てたい力

 ご自身のお子さんには「自分のやりたいことをみつけられる子になって欲しい」という磯村さん。「親としては待つ。こちらがこうしようと仕向けたとたん、見事にずれる。子どものやりたいことは子どもの心の中にあるので、見守ることが大切」とおっしゃられていました。中曽根が新著で伝えたいことも同じです。

 

若い世代に伝えたいこと

 「自分の心と対話することを大切にしてほしい。『ちょっと違うな。もやもやするな。あるいは、わくわくする』という気持ちを無視せず、心が感じたことに寄り添うこと」という磯村さん。「常に自分の気持ちに寄り添っていれば、いろいろな出会いの時に、自分の気持ちに正直に反応できる。外在化されたものに判断基準があると、首尾一貫せず、逆にある理屈の中で自分から閉じこもって、チャンスに対して一歩を踏み出せない」と常に自分に問いかけることの重要性をお話してくださいました。

 「幸せの基準は自分の中にしかない。自分の幸せを決めるのは自分」というメッセージが私の心に響いています。ご自分の強みを活かし、心と対話しつつ進む磯村さんに、本当の豊かさを感じました。

 

 今回、磯村さんは、最近オープンしたばかりのギャラリー兼事務局からお話くださいました。トークイベントの最後に、ギャラリーの様子をご紹介くださいました。今後はワークショップや色々な情報発信の場としてご活用するそうです。

 

アーカイブと次回のご案内

 インタビューはこちらからご覧いただけます。百聞は一見に如かずです。シブヤフォントの世界をお楽しみください。

 

 次回VOL.6は、9月18日(土)20時から、公立小学校教員の庄子寛之さんをゲストにお迎えします。
お楽しみに♪

 ご視聴はこちらから。YouTubeマザクエちゃんねる